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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)2037号 判決

控訴人 丸山幸輔

右訴訟代理人弁護士 松井道夫

被控訴人 直江津海陸運送株式会社

右代表者代表取締役 荻野周次郎

右訴訟代理人弁護士 横尾義男

主文

原判決を取消す。

本件を新潟地方裁判所高田支部に差戻す。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨の判決

二  被控訴人

控訴棄却の判決

第二主張

次に附加するほか原判決事実摘示記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人

1  本件訴については株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(昭和四九年四月二二日法律第二二号。以下「商法特例法」という。)の適用はないものと解すべきである。

2  右1が理由がないとしても、控訴人は本件訴訟を提起するに先立ち被控訴人に対し、商法特例法二四条による被控訴人を代表すべき者の選任申立をしたが、被控訴人はこれを放置し、本件出訴期間も迫ったので、一応被控訴人の代表者として従前の代表取締役を表示したものである。したがって、裁判所としては、(1)被控訴人に対し早急に右法条により本訴につき被控訴人を代表すべき者の選任を命ずるか、(2)民訴法五六条、五八条により特別代理人を選任するか、(3)被控訴人不出頭として訴訟を進行するかのいずれかの方法によるべきであるのに、原裁判所は突如口頭弁論を終結し、直ちに本件訴を不適法として却下したのは違法である。よって、原判決を取り消し、本件を原裁判所に差戻されたい。

二  被控訴人

本件訴について被控訴人を代表すべき者は商法特例法二四条によって選定した者であると解すべきところ、右代表者は、原審口頭弁論終結後に控訴人からの申立に基づきすでに同法条の規定により選定ずみであり、被控訴人の取締役である控訴人もこれを知悉している。しかるに、控訴人はその補正手続をしないのであるから、本件訴は不適法として却下すべきものである。

理由

控訴人が現在被控訴会社の取締役であり、また被控訴人が資本金一億円以下の株式会社であることは、訴状添付の資格証明書(被控訴会社の登記簿謄本)により明らかである。してみると本件訴は商法特例法第二四条に該当するところ、同条にいう取締役が会社に対して提起する訴とは、取締役たる資格において提起する訴たるとしからざるとを問わず、およそ同条にいわゆる会社の取締役が当該会社を相手とするすべての訴に適用があると解するのが相当である。従って被控訴会社に同条による会社代表者がいない(本訴提起当時それが選出されていなかったことは弁論の全趣旨によって明らかである。)のに、これに対して提起された本訴は、その点において不適法といわねばならないが、右は民事訴訟法第五六条の特別代理人の選任を得るなどの方法により補正することのできる欠缺であるから、同法第五三条により期間を定めて其の補正を命ずべく、控訴人が期間内に右補正をしないときにはじめて訴却下の判決をなすべきであって、右の手続を経ることなく、ただちに訴却下の判決をすることは許されない。(なお、被控訴人の主張によると、本訴提起後本件訴について被控訴人を代表すべき者が選任されているというのであり、その場合はその事実を明らかにした上、本件訴状の被控訴人代表者をその者に訂正することでその瑕疵は補正されるから、以後この者に対して手続を進めれば足りる。)しかるに事ここに出でず、漫然控訴人の訴を却下した原判決は不当であるから、民事訴訟法第三八八条に則り、これを取り消したうえ、本件を原審である新潟地方裁判所高田支部に差戻すこととする。よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川義夫 裁判官 高木積夫 清野寛甫)

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